乳化剤は、ケーキ、パン、朝食用シリアル、マヨネーズなど、私たちの日常の食品に広く使われています。近年の研究によって、特定の乳化剤が腸内の炎症を引き起こし、がん、心血管疾患、糖尿病のリスクを高める可能性があることが明らかになってきました。

米国ノースイースタン大学の研究チームが開発した食品データベースによると、乳化剤などの食品添加物を多く含む「超加工食品」が、現在のアメリカの食品供給の73%を占めているとされています。また、アメリカ人の1日の平均摂取カロリーのうち約60%が、こうした超加工食品から摂取されており、その摂取量は世界的にも上位に位置しています。

2023年に行われた調査では、イギリスのスーパーマーケットで販売されている約13,000種類の超加工食品のうち、51.7%に乳化剤が含まれていたことが判明しました。特に、菓子パンやケーキ類の95%に乳化剤が使われており、それらの多くには2種類以上の乳化剤を配合しています。

食品に含まれる乳化剤とは、基本的に「界面活性剤」のことで、水となじみやすい構造(親水基)と油になじみやすい構造(親油基)を併せ持っているため、水と油など本来混ざりにくい物質を均一に混ぜ合わせる働きを持ちます。乳化剤の中には、同時に安定剤や増粘剤の性質を持つものもあります。

ヨーロッパ連合では、乳化剤ごとに「E」で始まる番号を付けており、多くの食品パッケージにその表示が見られます。たとえば、「E322」はレシチン(卵黄由来の乳化剤)を指します。ただし、一般の消費者がそれぞれの番号の意味を理解するには、インターネットなどで調べる必要があります。  

糖尿病リスクの増加

最新の研究により、複数の乳化剤が2型糖尿病のリスク増加と関連していることが明らかになりました。この研究は2024年5月に『ランセット 糖尿病・内分泌学(Lancet – Diabetes & Endocrinology)』に発表されました。研究チームは、フランスの「NutriNet-Santé」コホート研究に参加した平均年齢43歳の成人10万人のデータを分析し、平均7年間の追跡調査を行いました。

その結果、カラギーナンとアセチル化酒石酸モノ・ジグリセリドを1日あたり100ミリグラム多く摂取すると、それぞれ2型糖尿病のリスクが3%および4%増加することがわかりました。アラビアガムでは、1日1,000 mgの増加でリスクが3%上昇。また、クエン酸ナトリウム、グァーガム、リン酸三カリウム、キサンタンガムをそれぞれ1日500mg増加させた場合、リスクは順に4%、11%、15%、8%の上昇となりました。

フランス国立保健医学研究所の研究責任者マチルド・トゥヴィエ氏と、研究の主要著者であるベルナール・スルール博士は、これらの発見は現時点では単一の観察研究によるものであり、因果関係を直接証明するものではないとしつつも、「食品業界における添加物の使用に関する規制を再評価するための重要な根拠となる」と述べ、消費者保護に向けた議論の一助となるのではないかと強調しています。  

腸内細菌叢への悪影響

2024年1月に発表されたマウスを対象とした研究では、2種類の食品乳化剤“カルボキシメチルセルロース(CMC)とポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン)”が、1型糖尿病の悪化を加速させ、腸内細菌叢の乱れや軽度の腸の炎症を引き起こすことが判明しました。

この研究の責任者であるブノワ・シャサン(Benoit Chassaing)博士は、2015年にジョージア州立大学でアンドリュー・ゲヴィルツ(Andrew Gewirtz)博士らと共に『ネイチャー』誌に掲載した研究で、乳化剤が健康に与える影響についての認識を大きく変える成果を発表しています。

当時の研究では、カルボキシメチルセルロースとポリソルベート80が、マウスの腸内微生物の構成と分布を変化させ、それによって腸の炎症を誘発し、クローン病、潰瘍性大腸炎、メタボリックシンドロームの進行を促すことが判明しました。メタボリックシンドロームは、2型糖尿病、心血管疾患、肝臓病へとつながる要因でもあります。研究では、腸内の粘液が腸の上皮を細菌から守るバリアであることが指摘されていますが、乳化剤は洗剤のようにこの粘液層の構造を変化させ、細菌との位置関係を崩すため、炎症のリスクが高まると説明されています。

長年にわたり、食品乳化剤は「安全」とされてきました。というのも、特にCMCやポリソルベート80のような合成乳化剤は、腸で吸収されずにそのまま排出されると考えられていたからです。しかし、腸内細菌叢が健康に果たす重要な役割が明らかになるにつれ、この見方は大きく変わりました。乳化剤が腸内にそのまま到達し、高濃度に存在することで、腸内細菌の構成や働きにより強く影響する可能性があると見られています。

ある研究では、一般的に使われている乳化剤20種類を調べたところ、CMCやポリソルベート80に限らず、カラギーナン、アラビアガム、グァーガム、キャロブガム(イナゴマメガム)などの天然由来乳化剤であっても、多くが腸内微生物の密度や構成を大きく変え、炎症促進分子の発現を増やすことが確認されました。これらの中で、最も一般的な乳化剤であるレシチン(卵由来)は、比較的影響が少ないとされています。

乳化剤が健康な人間にどのような影響を与えるかを確かめるため、研究チームは2022年に18歳から60歳までの健康な男女16人を対象にした臨床試験を行いました。厳格に管理された食事環境のもと、一方のグループには1日15グラムのCMCを含むブラウニーとスムージーを、もう一方のグループには乳化剤を含まない同じ食品を与えました。十数日後、乳化剤を摂取したグループでは腸内細菌叢に明らかな変化が見られ、食後に腹部の不快感を訴える人が増加しました。特に2人の参加者では、腸の粘液層の内側に細菌が侵入しており、これは腸内に炎症が起きている兆候です。  

がんリスクの増加

2024年に『PLoS Medicine(公共科学図書館・医学)』で発表された大規模コホート研究により、乳化剤の摂取と特定のがんリスクの増加との関連が明らかになりました。この研究は、平均年齢45歳のフランス人約9万2,000人を対象に、約7年間の追跡調査を行ったものです。

調査の結果、モノグリセリドおよびジグリセリド(単・二脂肪酸グリセリド)の摂取量が少ないグループと比較して、摂取量が多いグループでは全体のがんリスクが15%、乳がんリスクが24%、前立腺がんリスクが46%それぞれ高くなることがわかりました。さらに、カラギーナンの総摂取量が少ない女性と比べて、多く摂取している女性では乳がんのリスクが32%上昇していました。また、閉経前後の状態に基づいた分析では、焦リン酸塩、ペクチン、炭酸ナトリウムの摂取量が多い人は、少ない人に比べて閉経前乳がんのリスクがそれぞれ45%、55%、48%高くなることも確認されました。一方で、この研究では乳化剤と大腸がんとの間に明確な関連性は見つかりませんでした。

研究チームは、今回対象となった乳化剤の摂取量はいずれも、欧州食品安全機関(EFSA)が定める安全基準値を下回っていたことも付け加えています。  

心血管疾患リスクの増加

2023年に発表された同じデータベースを用いて、食品から複数の乳化剤を摂取するという別の研究では心血管疾患のリスクが高まることが明らかになりました。この研究は、心疾患の既往歴がないフランス人の成人約9万5,000人(平均年齢43.1歳)を対象に、約7年間の追跡調査を行ったものです。

その結果、セルロースやカルボキシメチルセルロース(CMC)の摂取量が多い人ほど、心血管疾患および冠状動脈疾患のリスクが高いことが分かりました。また、モノグリセリドおよびジグリセリド(単・二脂肪酸グリセリド)の摂取量が多い人では、複数の種類の心血管疾患リスクが上昇しました。  

超加工食品を減らすことが最も重要

近年の研究により、乳化剤が人の健康に与える潜在的な悪影響が次々と明らかにされているものの、乳化剤は私たちが日常的に食べる食品、特に包装食品に広く含まれており、完全に避けるのはほとんど不可能に近い状況です。

乳化剤の悪影響をやわらげる方法として、プロバイオティクス(善玉菌)の摂取が有効である可能性もあります。研究では、腸内に自然に存在する細菌「アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)」が、乳化剤による腸へのダメージをある程度打ち消すことが確認されています。

とはいえ、プロバイオティクスの摂取は、乳化剤による影響が出てからの「対処療法」に過ぎません。現在、専門家の間で最も広く推奨されているのは、未加工または軽度に加工された食品をなるべく多く摂取することです。

国際的な食品科学者が開発した「NOVA分類システム」では、食品を加工度に応じて4つのグループに分類しています。第1グループは、未加工または最小限に加工された食品。たとえば、野菜・果物・生の肉や魚など、家庭で調理に使う自然な素材。第2グループは、砂糖、塩、バターなど、自然の食品や素材から作られた調味料。第3グループは、加工食品。たとえば、塩漬けの魚や肉、缶詰の野菜や豆類など。第4グループは、超加工食品。炭酸飲料、チョコレート、キャンディ、アイスクリーム、市販の包装パン、マーガリン、ビスケット、菓子パン、ケーキ、シリアル、ヨーグルト飲料、果汁飲料、ピザ、チキンナゲット、フィッシュスティック、ソーセージ、ハンバーガー、ホットドッグなどの再構成肉製品などが含まれます。この第4グループに分類される超加工食品には、乳化剤をはじめとするさまざまな食品添加物が多く含まれており、風味や利便性を高め、コストを抑えることを目的としています。

(翻訳 華山律)

乳化剤の健康リスクが明らかに がん・糖尿病・心疾患の危険も | 腸内環境 | 大紀元 エポックタイムズ


Click on the Run Some AI Magic button and choose an AI action to run on this article